中小企業の情報戦略 ~徹底的な「持たざる」発想

菱洋フォーラム 「中小企業の情報戦略 ~徹底的な「持たざる」発想」

菱洋フォーラム 2003年3月14日

 サラリーマンが手軽に食事をする「定食屋」をチェーン化して急速に業容を拡大している「大戸屋」の情報システムを担当した赤松浩司氏と議論する機会があった。その着想に新鮮な驚きを得るとともに、中小企業にとっては、情報システム戦略を立案するには「大戸屋方式」が極めて有効だ、と感じ入った。概略を紹介する。

 3年前に赤松さんが大戸屋のシステム担当を依頼されて入社した際、大戸屋のチェーン店舗数は40店、年間売上高は40億円程度だった。現在は100店舗、年商も100億円に拡大している。この間に株式公開を果たして資金が潤沢になったので、今後はさらに開店のスピードは速まるだろうが、赤松さんがシステム構築を依頼されたのは、まさに、店舗数の急増を計画して、そのインフラとしてなんとしても情報システムを整備しなければいけない、という時期だった。

 その際に経営トップから出された条件は、他の要員を増やすことは予算的にできないこと、社内にもシステム担当として振り向けられる人的ゆとりはないこと、とに角、経費を安く上げること、だった。当時、システム構築を試みて購入したサーバーが社内には設置されていたが、これはほとんど使い物にならない。「ゼロ」からの出発である。逆に、白紙に絵を描くことができたので、これが成功した理由かもしれない。過去の負の遺産なしにスタートが切れたのである。

人員は自分ひとりというのだから、赤松さんは、徹底的なアウトソーシングの道を選ぶほかないと判断し、「持たざる」情報システム化の道を模索した。「安く」という条件から、使用するのはパソコン。ネットワークはインターネットを利用する。さらに、新たなアプリケーションは開発しない。すでにパッケージソフトがあるものだけを使ってシステムを設計する。アウトソーシングする会社にもこれを徹底的に要求した。

また、店舗に置くパソコンは端末としてだけ利用し、内部にアプリケーションは持たせない。アプリケーションはすべてセンター側で管理する。つまり、店舗の店員には最小限の使い方の練習で済むように設計した。これで研修時間、研修費用をなくした。研修によってパソコンの知識をつけるのは無駄。システムの側を徹底的に簡略化したわけだ。

この考え方は、いろいろな効果をもたらした。まず、情報システムを資産として持たなかったので、すべて経費として計算でき、この経費に対して、どのような効果が出ているか、評価が簡単になった。さらに、店舗数の急速な拡張に対しても、アウトソーシング事業者は喜んでシステムの増強に対応してくれた。短期間でシステムを完成させ、さらにシステムの拡張は苦労なく進行した。

 これまで自社運営、つまりレギュラーチェーンの展開だった大戸屋は、この春から、フランチャイズの募集を始める。店舗数はこれまでよりさらに速いペースで増加するのは間違いない。アウトソーシングでなければ、企業の成長は望めないことが、この段階になってさらに明確になった。中小企業にとって、情報システムの構築はやっかいな問題だ。しかし、どうやらアウトソーシング。それも、有能な担当者を外部から採用して短期間に構築する、というのが最良の策のようだ。赤松さんは、大戸屋のシステムを完成させた後、早くも次の外食チェーンに招かれて、次のシステム構築に当たっている。こういう人材に出会えて、すべてを任せられるかどうか、が成功の鍵だろう。

菱洋フォーラム 2003年3月14日

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