贅沢の味は忘れられないか

贅沢の味は忘れられないか

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 「一度、贅沢を覚えると、元の質素には戻れない」~~1980年代、バブル華やかし頃、しきりにそんな「消費の公式」が語られた。モノの値段は永遠に上がり、消費者は毎年、高級品志向を強めてゆく、というインフレが当然と思われていた時代である。しかし、それは十分な所得が保証され続ければ、ということである。長い経済低迷、しだいに減る収入や供給過剰による業界の過当競争などの別の要素がからまってくれば、あっさりと公式は書き換えられる。
 
 90年代、デフレが始まると、町に「100円ショップ」が急速に増えた。牛丼やハンバーガーなどのファーストフードは安いメニューへとシフトし、値下げ競争を繰り広げた。コンビニやスーパーが値下げを始めた弁当との業界の垣根を越えた競争も激化している。どんどん、個客一人が支払う「客単価」はどんどん下がって行く。消費者は、品質がそこそこなら、値段の安い方を選ぶ。時々、贅沢をするにしても、普段は、質素を極める消費行動に徹する層が増大した。支出するお金の対象について、シビアなセンスが鋭くなった。

 もちろん、数は限られてきたが、富裕層は存在する。その層を中心に高級食品や高級レストランの市場は存在する。また、「たまの贅沢」を志向する一般消費者の層もある程度、存在する。これらの「高級志向」の消費者も、支払う料金と提供される食品や料理の質への評価の目は厳しくなっている。つまり、高級食品や高級料理に支払うお金を惜しまないという態度はもはや、ない。質の高い食品や料理を要求しながら、料金はもっと安く、という要求である。

 筆者も琉球料理の店を東京で経営しているが、この数年で、顧客単価は大幅に低下した。しかも、料理の品質はさらに向上することを要求する。こうした難しい要求に、どのように応えるのか。高級レストランが、より安い料金で質の高い料理メニューを整えてゆく。番組が追跡するレストランの動きは飲食業界の今後を考えるうえでも貴重である。

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