「即席麺」の特許争いの思い出

「即席麺」の特許争いの思い出

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 日本経済新聞記者時代に食品産業を担当したことがあった。即席麺分野は、技術革新もマーケティングも変化が激しく、ニュースを求める記者にとっては魅力的な取材対象だったが、残念ながら直接の担当にはならなかった。概ね、新人記者が担当したが、新人指導のために取材に同行する機会もあったので、即席麺市場についてはかなり知識を身につけることができた。

 その中で、記憶に残るのは、日清食品と東洋水産の特許戦争だった。「カップ麺」について双方が相手方を特許侵害したと訴えていたのである。経緯を知らない新人記者は、うっかり、最初に取材したメーカーの方が正当だと思い込んで記事の中に触れると、相手方の猛烈な抗議にあって立ち往生する。対立する意見があるときには、双方の意見を取り上げるという煩雑な手法をとらなければならない、という原則をいやというほど、思い知らされることになる。

 その後は、記事をチェックするキャップや本社に控えるデスクに問題ある案件として周知されるようになったので、そうしたトラブルは少なくなったが、当初は双方の抗議は激しく、しばしば、取材や執筆の時間を取られて往生したものである。日清食品はマーケティングの改善のためにはマスメディアの経験のある人材が必要と見て、ベテランの経済記者を広報担当役員にスカウトしたので、抗議の仕方も洗練されたものになっていったが、東洋水産は創業社長が自ら記者クラブに訪ねてきて抗議する、といった具合で、応対に苦労した。

 そうした争いのさなかにも、日本発の即席麺は世界市場へと広がって行き、国内の特許争いなど、いつの間にか関心が薄くなってしまった。もっともここまで成長した背景には、ライバル企業の熱く激しい対抗心があって、新製品の開発や市場開拓に熱を上げた、という事情もあったのかもしれない。

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