“激動 流通サバイバル”第1回 『百貨店 再編のゆくえ』

“激動 流通サバイバル”第1回 『百貨店 再編のゆくえ』

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 自分で自由になるお金を十分にもっていなかった学生時代、購入する商品を選択する基準は値段の安さだった。後年、同じ品質の商品ならば、比較して安いほうの商品を選択する、という発想法のあることを知ったが、学生時代には、品質のことは関心なく、同じジャンルの商品のうち、最も安いものが価値ある商品だった。値段が高い商品を購入する人がいることが信じられずに、スーパーがチェーン店を拡充している時代だったので、値段が高い商品を販売する百貨店などは程なく皆、消えてなくなると確信していた。

 社会人になって、新聞記者生活を始めたころ、ようやく自分の発想がいかにいびつなものだったか思い知った。ご婦人が購入する化粧品などは、高いものには高価であるというだけで価値があることを知った。同じ商品であっても、安く売っている店で買うことに意味があるのではなく、わざわざ高い店で買ったことが価値をもつ場合がある、どころか、結構、そういうケースが多いことも驚きをもって知った。それが高級デパートの価値の一つで、ある種の贈答品はそうした高級デパートの包み紙でなければ失礼に当たる。

 しかし、そのブランドの魅力も努力なしに維持されるものではなかった。年月を経るうちに、じわりと同じ商品ならば価格が低いほうが良いとする消費者が影響力を行使して、高級デパートはしだいに劣勢に立つ。地方のデパートはいつの間にかスーパーと価格競争をするようになった。そして商品調達力でスーパーに敗れる。この変化はやがて高級デパートの市場も食い荒らすようになる。90年前後のバブル崩壊を機に、価値観の変化は市場の様相を塗り替えた。

 もちろん、ブランドが生み出す価値はまだ、生きている。しかし、かつての高級デパートを元気に維持するのに十分か、というと、すでにその時代は過ぎつつあると言わざるを得ない。大手デパートの大胆な統合、再編成が進行し、消費者は驚愕しているが、筆者には、まだ、変化は途上のように思える。まだ、スーパーや大型専門店も巻き込んだ流通全体のさらに大規模な再編成が起こるように見える。

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