IT帝国の興亡 スティーブ・ジョブズ革命

IT帝国の興亡 スティーブ・ジョブズ革命

「IT帝国の興亡 スティーブ・ジョブズ革命」
日本経済新聞出版社:1800 円+税
2009年7月17日刊行
著者 村山恵一(日本経済新聞社シリコンバレー支局長)

 筆者が日本経済新聞社で編集委員兼デスクをしていた時期に入ってきた新人記者が村山恵一記者だった。当時、まだ生き残っていたオフィスコンピューターがパソコンに取って代わられる激動の時期だった。経済学部出身で電子技術には知識がほとんどなかったにもかかわらず、短期間で技術的な知識を大枠で理解した。それだけでは経済記者は務まらない。その技術的変化で、ビジネスがどのように影響を受けているかを鋭角的な切り口で、現場の変化、成長、飛躍的発展、苦悩、衰退、合従連衡などの諸現象を発見し、報告することが必要である。時には仮説を織り交ぜて今後の動向を予測しなければならない。

 前線の記者に配属された新人にとって、こうした技量を身につけるのは優秀な記者で5年、ついに会得しないまま、ただ、威張りくさるだけの「強面(こわもて)」になってゆくのが大半である。しかし、村山記者は、入社後半年で、この技量を身につけた。その年の冬には、日経産業新聞で10回の連載記事を掲載した。これを指導した先輩記者が、深夜、デスク作業をしている筆者の下に来て「デスク、僕は村山に追い抜かされました」と情けなさそうに報告にきた。この先輩記者も有能な記者で、後にロンドンの特派員になり、日経ビジネスの編集委員として名をとどろかせ、現在、日経新聞に戻って編集委員をしている。村山記者は、この有能な先輩の舌も巻かせたスーパー新人だった。

 その村山記者がシリコンバレーに赴任したのが2005年9月。4年間のハイテク産業の取材はマイクロソフトの支配に陰りが見られ、アップルが復活して、また、グーグルが劇的な成長を遂げる、という記者冥利に尽きるような波乱の時代である。この4年間をアップルの復活というよりも、PCから「iPod」や「iPhone」などのマルチメディア機器への主役交代を視座にして報告するのが本書である。ITの時代は終わったと早々と宣告する向きもいないでもないが、本書を見る限り、IT革命は依然としてエネルギーに満ちたものである。それを著者は「スティーブ・ジョブズの革命」として表現している。

 ただ、すい臓がんを患っているジョブズの健康への心配を随所にちりばめて、本書はジョブズへの尊崇と敬愛を捧げるものとなっている。一流のジャーナリストによる一流の経営者への敬愛に満ちた著書というのは、読者にとっても晴々しい思いがする。

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